幕末前の爛熟した町人文化の中で庶民の欲求とニーズに合った名所シリーズとして広重が発表したのが保永堂版「東海道五十三次」であり、大成功を収めました。その数年前に刊行された葛飾北斎の「富嶽三十六景」の斬新な作風に刺激され、広重はそこに西洋式の遠近法などの大胆な構図をも採用し、浮世絵風景画の新境地を開拓しています。広重の偉大な点は、単なる名所絵や道中絵の枠内に踏みとどまらず、画面に風や雨などの自然現象や季節感、四季の風物や行事、人々の生き生きとした仕種や表情、ドラマチックともいえる躍動感のある描写に挑み、傑出した才能を発揮している点です。広重は20種類ほどの「東海道」シリーズを手掛けていますが、今日でも世界的名作として評価されているのは最初に刊行された保永堂版です。